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上写真「黄泉の地中」より陰陽縒られた綱龍がはるか遠く伸び、下写真「森と水、智の都」に至る
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バビロンの宇宙樹
日向あき子(美術評論家)

 伊東市の沖あいにある初島近くでマグマが噴出し、海底に新隆起ができるという事件がおきた。海鳴り地鳴りをともなった先頃のこの地殻変動は比較的小規模だったものの、われわれの中に自然原初からのメッセージー驚異と脅威ーを呼び起こしたのである。都市も文明も、あるいは「城」も「季節」(アルチユール・ランボー)も、その地脈の上に築かれたバビロンの塔にすぎないということだ。知らないわけではないが忘れていたい.できることなら抹消したい根元的な恐怖だが、私の場合あの報道をきいて真先に思いうかべたのは、若山和央がパリで制作した彫刻連作群である.、

 3年前の同展会場には、まるでエクソシズム(悪魔ばらい)そのもののような木彫群が漆黒の光を放っていた。バリでヒンズー僧の木彫師のもとで学んだ若山は、パリ的な「大池の血液」を古木に充填させたのだ。「その鼓動に自分を一体化させ、大地との共振の中からこんな作品が生まれたんだと思う。僕が創ったというより、僕を通して大池が語りかけてきたといったほうがいい、バりで体得したものは僕の身心に刻みニまれてはいるが。しかしいま僕が在る所は東京というパピロンです。」今回は大他の血液からケルト神話の語る宇宙樹へと思考が変わり、用いる素材も、木から素焼き・金属・縄にかわる。素焼は土と火だが、生命をはらむ土は風・水・樹木とともに聖なるエネルギーに属している。他方、火は人間の業の初めであり、錬金術から生命工学にまで達した今、問われているのは人間そのもののあリ方なのだ。「僕はいま、人間の業も加えた智の構造を古代神話共通の宇宙樹としてとらえている、僕の中で今世紀末のバピロンの塔は、その宇宙樹を内に組みこんだ、いわばサイボーグ的な世界です。」     
 今回は、画廊空間全体が若山的カオスーインスタレーションの場となる。

仙台の杜から始まった

しめ縄、綱引き、縄文。大地の力と呪術的な匂い

この表現は建築家ユニット、ワークショップが手がけたキリンビアマーケットの一店、仙台の"MORI"のアートディレクションをしたのがきっかけになっている。
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若葉通りから入った所の商業ビル地下3階分ほどの巨大な吹き抜け空間に、20mほどの長大で分厚い木の天板がワイヤで天井から吊られて浮いている。部屋の端には中に何もない5,6m立方のヒバ角材で出来たキューブ空間。建築家は言葉にはしないが、これは多分に神道的と感じた。細長く高い空間は神殿のようであり、巨大テーブルの上の食物はキューブに「降りるもの」に対する捧げものだ。キューブの中でライブも出来るそうだが、今度はこれが神楽殿となる。
東北、杜(東北の古語では山のことをモリという)地下大空間、ということで、すぐに自分の世界に引き寄せてしまった。縄文の東北・原始信仰・神事としての綱引き→綱をメインに考える。綱は陰陽、エレメントは五行だ。木火土金水…いや仏教でいう五大、地水火風空かな…と妄想は走り、商業施設ではその片鱗しかもちろん出来ないので、そんな考えを深めてインスタレーションをしてみよう!とその時決意。そして東京に帰ってみると、なんと、早速そんな話が来ていた。
「町田の画廊で何かやりませんか?」

死と生の坩堝より

タイトルのバックにある「黄泉の地中」ここには抜け殻とともにある死の荒廃の中にうねり、とぐろを巻く生の息吹が蠢き始めている。
ここよりはるか離れた所でジャングルを造り 花を咲かせ、実をつけた。
ヒトの智の都の上で、おおきな樹はダンスを踊った。

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左:果実は落ち、熟成とともに今必要な形とは何か、を考えている。右:3つの果実から出た芽はそれぞれの性格を反映した刃となった。

都市としての水光器

丸い水盤の四方向は正確でなければならない。
中央の水光器の下面に光源があり、その脇には水紋をつくる時計仕掛けの櫂、そこから発生する水面の揺れに反射した光は揺らめきながら周りに投影する。また水光器の上面には北斗七星の配置の穴があり、内部で焚かれたお香の煙と香りはその穴から漂い、同じ穴から光はビームで上空に伸び、その煙を際立たせる。この写真の水にはドライアイスが入れられ、水面を這うように広がる白煙にも光が揺らめいている。
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オープニングにはベリーダンスをやっている海老原さんとバリダンスをやっている若い二人が即興でこの森の下、泉のほとりで踊って下さって、観客の喝采を浴びた。「この場、何とも気持ちがいい!」と感想を述べて下さったが、もし自然発生的に歌舞が生まれたのだとしたら、この魔術実験は成功したのではないかと(笑)、思うのである。

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