九つの妙微光曼荼羅
鉱物と電気、光で生命のようなものが育まれる空間が表現できるか
「壷中天」とは、「壷のなかに別天地あり」の意で、費長房という人物が薬売りの老翁(仙人)が所持する壷のなかに入ると、そこには別世界の仙境があったという話(『後漢書』に基づく)
さらに、そこに小学生のときに読んだファーブルの昆虫記、フンコロガシの話と、エジプトの太陽信仰におけるスカラベ・サクレ(フンコロガシ)の話が重ね合わさった。
スカラベは太陽をころがし、地に埋め、再生を司る聖なる甲虫とされる。神様の一人だ。
スカラベは、転がしてきた玉に、卵を産みつけた小さな玉をのせて洋梨型をつくり、孵った幼虫は中のレアな糞を食べ、自分で作った空間の中でサナギになる。
玉の中のサナギは、たとえようもなく美しいそうである。私は見た事がないが。
サナギから孵っても、固くなった洋梨カプセルから、そのままでは出られず、毎年定期的に起きるナイルの氾濫によって水でふやけ、柔らかくなったところから若い成虫のスカラベが出てくる。
古代の人はそれを見て驚いたに違いない。
なぜ甲虫スカラベが重要なのだろう という小さい頃からの疑問の答。
この「再生と永遠の命」はエジプト神話の重要なポイントなのだ。と合点した。
永遠に流れる時間の中で、無限に生まれ変わりながら、次の宇宙はこんなんかな と
美しいサナギの中で、どろどろに融けた流動体は夢想している。
壷は外から見て、内側にとじ込められた宇宙の表皮である。
内部の闇は無限大に拡がっているが、外からの視線はそれを限定空間と見る神の視線だ。
繭のかたち、卵のかたち、その表皮の内側で何が籠っていて,何が起きているのか、は永年の不可思議テーマだったのだが、何か立体を作る時にいつも何故か出てくる洋梨のかたちは、そうかスカラベなんだ!と合点したところで様々な符号が組合わさってきた。
スカラベがその合理性と美意識ともとれる「永遠の命を育む」フォルムを魂こめて刻んでいることに心してカタチを削った。
その密閉された壷の中は、真の闇である。
普段の光の中では気がつかない、ほんのわずかな光を放つものをこの中では捉えられる。
見られていることに気がつかないデリケートなイノチは自由奔放にその中で遊ぶ。
そしてそれを、密かに 覗き見るのだ。
会場 ■ 安楽寺 書院
京都市左京区鹿ケ谷御所の段町21
安楽寺HP http://www.kyoto.zaq.ne.jp/anrakuji/
協力 ■ 陶芸:真喜志祐子
光、鉱物関係:川口裕